
「指示を出さないと動いてくれない」「自分で考えて行動してほしいのに…」
こうした悩みを抱える管理職の方は少なくありません。部下が受け身になっていると、業務が滞ったり、上司の負担が増えたりと、チーム全体のパフォーマンスにも影響が出てしまいます。
しかし、部下が受け身になってしまうのは、本人だけの問題ではありません。実は、育成の過程やコミュニケーションのあり方に原因があることも多いのです。
では、なぜ部下は受け身になってしまうのか。そして、自主性を高めるためには、上司としてどのような関わり方が求められるのでしょうか?
本記事では、部下の自主性を引き出すための考え方や実践ポイントを、データや具体例を交えながらわかりやすく解説していきます。
Contents
自主性のある社員や部下を育てる意味
管理職の62%が部下育成に悩みがある
2023年にEdWorksが行った調査によると、「部下の育成に悩みを抱えているか」という問いに対し、「非常に抱えている」が14.7%、「やや抱えている」が47.3%と、62%の管理職が悩みを抱えていることがわかりました。
特に、部下の人数が増えるほどその傾向は強くなり、5名を超えると60%以上、10名を超えると70%以上が育成に課題を感じているという結果も出ています。
これは、部下の数が増えれば増えるほど「一人ひとりに目が届かない」「適切なアプローチが分からない」といった悩みが顕在化するからでしょう。つまり、部下の育成は一部のマネージャーだけの課題ではなく、ほぼすべての管理職が直面する“共通課題”であるといえます。
戦力アップには部下の育成が必要不可欠
現場で自ら考え、行動できる社員が増えれば、マネジメント層の負担は減り、チーム全体のパフォーマンスが向上します。上司が細かく指示を出さずとも、社員が目的を理解し、自発的に動けるようになれば、業務スピードもクオリティも大きく変わってきます。
業務効率が向上すれば自然と組織全体の力も上がる
社員一人ひとりが「自分ごと」として業務に向き合うようになると、問題解決への意識や主体的な提案が生まれやすくなります。結果的に、部署単位だけでなく組織全体の生産性向上や業績アップにもつながります。つまり、自主性を引き出すことは、個人の成長を促すだけでなく、企業としての成長戦略でもあるのです。
部下を受け身にしてしまうきっかけとは
部下の自主性を育てたいと思っていても、実は無意識のうちに“受け身な状態”を作り出してしまっているケースは少なくありません。育成のつもりが、逆に部下の成長を妨げていることもあるのです。ここでは、部下を受け身にしてしまいやすい代表的な3つの要因を紹介します。
過剰に教えてしまう
丁寧にやり方を教えること自体は悪いことではありません。しかし、何から何まで先回りして説明してしまうと、部下は「自分で考えなくてもよい」と受け取ってしまい、自主性が育ちにくくなります。
たとえば、業務手順を詳細に教えるだけでなく、「なぜこのやり方なのか」「他に選択肢はないか」といった問いかけを交えることで、部下が自ら調べ、考える機会を作ることができます。あくまで“考える余白”を残すことが重要です。
自主性にかこつけて放任する
「それくらい自分で考えてやれ」と言いたくなる場面もあるかもしれません。
しかし、明確なゴールが共有されないまま放任してしまうと、部下は「何が正解かわからない」「質問したら怒られるかも」と不安になり、かえって動けなくなってしまいます。
部下の自主性を引き出すには、放任するのではなく見守る姿勢が必要です。
わからないことがあれば安心して相談できる、そんな心理的安全性のある環境づくりがカギとなります。
成果のみを評価対象とする
評価基準が「成果」のみに偏っていると、部下は失敗を恐れてチャレンジできなくなります。自主性は行動からしか生まれませんが、その行動がリスクになってしまうと感じた時点で、部下は守りに入りやすくなります。
特に、新しいことに挑戦した結果うまくいかなかったとしても、その「プロセス」や「工夫した点」を正当に評価することで、次の行動につながる前向きなマインドが育まれます。
成果だけでなく、そこに至るまでの努力や成長を見逃さないことが、自主性を支える基盤になるのです。
自主性を引き出すために意識すべき3つの行動
部下の自主性を育てるには、「考えて動ける状態」を整えることが欠かせません。ただ「もっと自分で考えて行動してほしい」と願うだけでは、状況は変わらないのです。ここでは、自主性を引き出すために管理職が実践できる3つの具体的なポイントを解説します。
指示を明確にする
自主性を高めるためには、まず“何をすべきか”が明確である必要があります。
目的や納期、成果物の使われ方が曖昧なままだと、部下は「どこまでやればいいのか」「どう進めればいいのか」がわからず、不安から動けなくなってしまいます。
仕事を依頼する際は、以下のような点を明確に伝えるようにしましょう。
- なぜこの仕事が必要なのか(目的)
- いつまでにやるのか、なぜその日までなのか(期限)
- 誰が使うのか・どのように使われるのか(背景や用途)
これらを正確に伝えることで、部下は全体像を理解して動けるようになります。
指示が明確であることは、自主的な判断と行動を後押しする“土台”となるのです。
部下が何が得意かを理解する
全ての部下が、すべての業務に対して同じように力を発揮できるわけではありません。性格や経験、スキルに応じて得意・不得意があるのは当然です。
例えば、文章が得意な部下には資料作成や提案書の草案づくりを任せる。人と話すのが好きな部下には、クライアントとの打ち合わせやヒアリングに同行させる。
こうした配慮によって、部下は「自分はこの仕事で役に立てる」と実感でき、自信をもって仕事に向き合えるようになります。
もちろん、苦手な部分を克服する成長機会も大切ですが、まずは強みを活かして成功体験を積ませることが、自主性を高める第一歩です。
部下に任せることができる
「任せる」ことは、部下の自主性を引き出すうえで非常に大きな意味を持ちます。
上司がすべての判断を握ってしまうと、部下は「どうせ自分の意見は通らない」と感じ、主体性を失いやすくなります。
大切なのは、部下が安心して「やってみたい」と言える環境を作ること。
そして、部下が自ら「やります」と言ってきたときには、できるだけ前向きに任せてみましょう。
経験が浅く不安がある場合は、一部分を任せてみたり、途中でアドバイスやフォローを入れる形で、成長のサポートをしていくのが理想的です。
部下の自主性を継続的に育てる仕組み
自主性は、ただ「任せる」だけで自然と育つものではありません。部下が自ら考えて動けるようにするには、組織全体の環境づくりも欠かせません。
ここでは、日々の業務のなかで意識すべき3つのポイントをご紹介します。
意思決定プロセスのスピードを高める
自主性のある社員ほど、「行動したい」という気持ちが強く、スピード感を持って動きたがる傾向があります。
しかし、会社や上司の意思決定に時間がかかると、せっかくの意欲も削がれ、次第に消極的になってしまいます。
部下が積極的に動ける環境を整えるには、判断スピードを高めることが重要です。たとえば、ある程度の経験を持つ部下であれば、小さな意思決定は本人に任せる、もしくは一定の承認権限を与えるなどの対応も効果的です。
ユーザーや顧客の声を知る機会を作る
仕事に対する意欲や責任感は、「誰かの役に立っている」と実感できるときに強まります。
たとえば、エンジニアや企画職が、実際の利用者からのフィードバックや感謝の声を知ると、製品やサービスの意味を再認識し、自ら改善提案を考え始めることもあります。
顧客との接点を持つ機会を設けることは、自分の仕事がどう価値を生んでいるかを実感するきっかけになります。これが、自ら行動する「主体性」の源になるのです。
成功体験を積ませる
人は「うまくいった」という経験を通じて、自信と行動意欲を高めていきます。
たとえ小さな成功でも、「自分で考えて動いた結果、成果が出た」という実感があれば、次はもっと大きなチャレンジに踏み出せるようになります。
上司としてできることは、部下が挑戦できる機会を意識的に用意すること。そして、成功体験を共有し、しっかり評価してあげることです。
「この仕事、自分で考えてやってみたらうまくいった」という経験は、自主性を育てる最高の教材になります。
自主性の高い人材を育てることで企業の成長にもつながる
部下の自主性を育てることは、単なるマネジメントテクニックではありません。個々の社員の成長を促し、組織全体の生産性と創造性を底上げする、極めて重要な戦略です。
部下が自律的に動けるようになると、管理職自身の負担も軽減され、より大きな視点での戦略的な業務に集中できるようになります。これは、チームにとっても、会社全体にとっても大きなプラスです。
すぐにすべてを変えるのは難しくとも、「まずは一つ実践してみよう」という姿勢が、やがて大きな成果に結びつきます。管理職として、組織の未来を担う人材を育てることを、ぜひ前向きに楽しんで取り組んでみてください。