
近年、多くの企業で導入が進んでいる「1on1ミーティング」。しかし、「何を話せばよいかわからない」「効果が感じられない」と悩む管理職の方も少なくありません。
本記事では、1on1を効果的に行うポイントについて詳しく解説し、上司・部下・組織全体にとってメリットのある1on1の実践法をご紹介します。
1on1を効果的にするポイント
雑談はうまく活用すること
1on1というと、どうしても「業務の話」に終始しがちです。しかし、雑談はアイスブレイクや信頼関係の構築において非常に効果的です。最初の5分だけでも構いません。仕事以外の軽い話題、たとえば趣味や週末の出来事などを話すことで、部下の緊張がほぐれ、自然と会話がしやすくなります。
もちろん、雑談だけで終わってしまう回もあるかもしれません。それでも、部下が「話してスッキリした」「気分が上がった」と感じるのであれば、それも1on1の効果のひとつといえます。
ただし、雑談に終始してしまっては、本来の目的が果たせません。雑談を通じて場の空気を和らげた後は、自然に本題へと移行していくことが理想です。
まずは、部下の話をしっかりと聞く
1on1は「上司が話す場」ではなく、「部下が話す場」です。上司として気になる点がある場合でも、まずは部下の話に耳を傾ける姿勢が大切です。
質問攻めにならないように気をつけながら、できる限り部下自身が話のテーマを設定できるように促しましょう。例えば、「最近、気になっていることはありますか?」といったオープンな問いかけをすることで、自然に本音が出やすくなります。
このように、部下のペースに合わせて話を引き出すことが、信頼関係の構築と本音の共有につながります。
本音を聞き出すためには自己開示も必要
部下に心を開いてもらうためには、上司自身も心を開く必要があります。つまり、自己開示です。上司が自分の失敗談や過去の悩みなどを語ることで、部下も「この人には話していいんだ」と感じるようになります。
ただし注意したいのは、上司が話しすぎてしまうと、部下が話す機会を失ってしまうことです。あくまでも、自己開示はきっかけ作りとして活用し、主役は部下であることを忘れないようにしましょう。
問題を解決しようとしない
上司としては、部下の話を聞くと「どうにかしてあげたい」と思うものです。しかし、1on1はカウンセリングの場ではありません。無理に問題解決をしようとすると、部下が萎縮して本音を話せなくなってしまうことがあります。
大切なのは、部下の話に耳を傾け、時にはヒントを与えて自ら考える機会を提供することです。たとえば、「君はどう考える?」「もし他のやり方を選ぶとしたら?」など、考えを促す問いかけが効果的です。
すべての問題を即時に解決する必要はありません。話すことで気持ちが整理されることもあり、それ自体が1on1の大きな効果といえます。
褒めるときは具体性が大事
「よく頑張っているね」といった言葉も悪くはありませんが、具体性のない褒め言葉は、時として「形式的」「適当」と感じられてしまうことがあります。
たとえば、「先週のプレゼンで、資料の構成がすごくわかりやすかった」「〇〇プロジェクトでの段取りがとてもスムーズだった」など、具体的に何が良かったのかを伝えることで、部下はより自信を持ちやすくなります。
質問においても、「最近どう?」ではなく、「〇〇業務に取り組んでみてどうだった?」と的を絞った質問にすることで、部下も答えやすくなります。
そもそも1on1とは?
1on1とは、上司と部下が定期的に行う1対1の面談のことを指します。目的は、単に業務の進捗を確認するのではなく、部下の悩みやキャリア、モチベーションなどに耳を傾けることです。
この対話を通じて、上司は部下の気づきを促し、成長を支援します。その結果として、部下自身のパフォーマンス向上や組織の成果にもつながっていくのです。
1on1で得られる効果やメリット
上司と部下の信頼関係ができる
1on1の最大のメリットの一つは、信頼関係の構築です。業務の話だけでなく、時にはプライベートな悩みや将来の不安など、幅広い話題について会話することで、互いの理解が深まります。
「話しても大丈夫」「この人なら聞いてくれる」という安心感は、仕事の進め方や報連相の質にも良い影響を与えるでしょう。
部下の成長につながる
1on1は、単なる雑談の場ではなく、部下の成長を支援する場です。部下の悩みや課題に対して上司が適切にアドバイスやフィードバックを行うことで、考えが整理され、新たな視点や気づきが得られます。
このプロセスを繰り返すことで、部下は徐々に自信をつけ、自ら考え行動できる人材へと成長していきます。
組織全体の生産性が向上する
部下一人ひとりがやりがいを持ち、主体的に働けるようになると、組織全体の生産性が向上します。また、1on1を通じて現場の課題が浮き彫りになることで、業務改善のヒントが得られることもあります。
つまり、個人の成長が組織の成長にも直結するのです。
定着率が向上する
部下が「自分のことを見てくれている」「成長を支援してくれている」と感じられるようになると、モチベーションやエンゲージメントが高まります。その結果、離職率の低下にもつながり、長期的に安定した組織運営が可能となります。
1on1で話すテーマ例
業務や組織のこと
部下が現在取り組んでいる業務や、チーム・組織全体についての話題です。進捗の確認だけでなく、困りごとや不満、改善提案などを引き出すことが目的です。
- 最近の業務で苦労していることはありますか?
- 取り組んでいるプロジェクトで、何か工夫していることはありますか?
- チーム内のコミュニケーションで気になる点はありますか?
- 今の業務量は適切だと思いますか?
- もっとこうすれば働きやすい、と感じることはありますか?
業務についてただ「順調ですか?」と聞くだけでは、本音は出てきません。「どの業務にどれだけ時間がかかっている?」「今週一番難しかった仕事は?」など、具体的な視点から切り込むと、より深い話が引き出せます。
キャリアや目標
中長期的な視点で、部下のキャリアパスや目標設定について一緒に考えるテーマです。本人の希望や不安、学びたいことを把握することで、成長をサポートできます。
- 将来的にやってみたい業務や役割はありますか?
- 今後、どんなスキルを身につけたいと考えていますか?
- 今の仕事は、あなたの目指すキャリアにどうつながっていると思いますか?
- 現在の評価制度について、納得感はありますか?
- これから半年〜1年で達成したい目標は何ですか?
キャリアについての対話は、定期的に行うことが大切です。将来の方向性を一緒に考えることで、モチベーションの向上や離職防止にもつながります。
モチベーション
仕事に対する意欲や働きがい、チャレンジしたいこと、不安などを把握するテーマです。部下の心理的な状態を知るためにも欠かせません。
- 最近、仕事で「楽しい」と感じたことはありますか?
- 今の仕事にやりがいを感じていますか?
- もっと挑戦したい業務や役割はありますか?
- 働くうえでの不安やストレスを感じる瞬間はありますか?
- 何か改善したい働き方はありますか?
モチベーションは、パフォーマンスに直結します。褒める・励ますだけでなく、チャレンジしたい気持ちを尊重し、失敗しても支える姿勢を見せることが重要です。
プライベート
趣味や家族、休日の過ごし方など、業務以外のテーマです。緊張をほぐしたり、相互理解を深めるための「潤滑油」として効果的です。
- 週末はどんなふうに過ごしていますか?
- 最近ハマっていることや趣味はありますか?
- もし長期休暇があったら、何をしたいですか?
- 家族やパートナーと、どんな時間を過ごしていますか?
プライベートな話題は、信頼関係を深める効果がありますが、詮索しすぎない配慮が必要です。相手が話したがらない場合は、深追いせずスルーする柔軟さが求められます。
体調やメンタル
部下の健康状態やメンタルの調子について確認するテーマです。特にリモートワークや繁忙期には、変化に気づきづらいため、積極的に確認することが大切です。
- 最近、よく眠れていますか?
- 疲れやストレスを感じていませんか?
- 無理していないか、心配している部分があるのですが…
- 働き方や勤務時間に、無理が生じていないか教えてください
体調やメンタルに関する話題は、デリケートですが重要です。「気にかけている」という気持ちを素直に伝えることで、安心して話せる雰囲気を作れます。
感謝やフィードバック
1on1は「話を聞く」だけでなく、「フィードバックを伝える」「感謝を伝える」場でもあります。
- 先日の対応、すごく助かりました。ありがとう。
- あの場面での判断、的確だったね。どう考えたの?
- 今後もっと伸ばしてほしい点があるので、共有させてほしい
フィードバックは「具体的に」「前向きに」伝えることで、部下の納得感と行動変容を促せます。
効果的な1on1には企業全体でフォローが必要
1on1は、部下の成長を支援し、信頼関係を構築し、組織の成果につなげるための極めて重要なマネジメント手法です。形式的に行うのではなく、今回ご紹介したようなポイントを意識することで、その効果を最大限に発揮することができます。
ただし、上司一人にすべてを任せるのではなく、企業全体で1on1を支える仕組みや文化の構築も欠かせません。管理職自身が成長し続ける姿勢を持ちながら、部下との対話に真摯に向き合うことで、よりよい組織づくりが実現できるでしょう。